· 

未分割時の相続税上昇とは

 

質問】未分割時の相続税額上昇について

 

今春父が亡くなり、盆明けから遺産分割協議を始めましたが、兄と私の意見の相違が大きく協議は不調です。おそらく未分割のままで相続税申告することになるでしょうが、「未分割のままで相続税申告すると、納税額が上昇する」と聞きました。預金凍結のままであれば納税資金がほとんどない状況となります。主な遺産を記載いたしますので、未分割時の納税額と、分割後の納税額とを教えてください。

 

相続人:母と兄と次男(私)合計三名

①居住用固定資産(未分割)

土地:相続税評価額約5500万円(140㎡)

 家屋:固定資産税評価額約700万円

②事業用固定資産(未分割)

土地:相続税評価額約6000万円(350㎡)

 家屋:相続税評価額約1100万円

③死亡保険金:3000万円(受取人未定、未分割)

④現金預金:3500万円(未分割、凍結中)

⑤金融機関からの借入金:1350万円

⑥葬儀費用:150万円

 

 

回答】未分割時に約2270万円、一般的分割後に約450万円です(脚注一)

 

ご質問者のご懸念通り、未分割での相続税申告では優遇規定の適用を受けられず、納税額が上昇しがちです。私なりに、常識的な分割をおこなった仮定と比較してみたところ、約1800万円超の納税差額が生じました(脚注二)

 

この差額が生じた理由は、未分割の場合にそれら未分割財産について次のA、Bの規定が適用できなくなるからです。

 

 

 

A配偶者の税額軽減規定

 

この規定では、配偶者の実際取得額(法定相続分)(1億6千万円)の多い方とのいずれか少ない方まで、税金が軽減される規定です。

 

ご質問者のお母様に適用される軽減額上限は、法定相続分:1億9800万円の1/2<1億6千万円です。従いまして、1億6千万円までの相続遺産取得であれば、お母様に相続税の納税は生じません。

 

 

 

B 小規模宅地等の評価減規定

 

この規定は、特定事業用宅地等や居住用宅地等の評価を80%減額できる規定です。分割後であれば、お母様は、①の居住用土地140㎡について評価額を80%減額できます。お兄様は、②の特定事業用土地169.69㎡について評価額を80%減額できます。

 

また、特定計画山林の特例と特定事業用資産の特例も未分割時には適用できません。詳細は改めてご説明します。

 

 

 

未分割財産が3年以内に分割された場合の手続き

 

分割しておけば払わずに済んだ相続税額をもはや取り戻せないのかというと、決してそうではありません。申告期限までに分割されなかったものの、その後3年以内に分割された場合には、前述の規定の適用を受けることができます。相続税額の還付を受けるときは、分割があった日から4カ月以内に更正の請求を提出することで、納め過ぎた税金の還付を受けることができます。ただし、期限内申告に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきましょう。

 

 

 

納税資金不足対策として

 

仮に未分割のまま申告し、納税資金不足に陥るようであれば次の対策が考えら、おすすめできる順番で記載してあります。

 

①お父様の預貯金を相続人全員の合意で引き出す。

 

②金融機関から借り入れする。

 

③延納制度を活用する

 

本来的には、争続防止のため生前に遺言書を作成することが好ましいでしょう。

 

 

 

脚注

 

()本文は平成28年11月21日の税法等に基づいて作成しております。

 

()未分割時の相続税額は確定しますが、分割時の納税額は遺産分割方法により異動いたします。ご質問者について、節税目的の極端な遺産分割をおこなえば、納税総額が200万円程度におさまるケースも考えられます。