【質問】事業承継として株式を異動する手段を教えてください
製造業をはじめて30年、間もなく還暦を迎えます。ゆくゆくは息子に会社を任せてゆこうと考えており、本人の自覚を促すため息子を役員登記しました。
経営者としての手腕はまだまだですが、私の有する発行済株式を息子に渡してゆこうかと思っています。できるだけ税金のかからない株式移転する方法をお教えください。
1、資本金300万円の有限会社
2、発行済株式は60株、1株の株式評価額は約22万円
【回答】痛税感の少ない株式異動方法を3通りご説明します(脚注1)
①暦年贈与の基礎控除110万円を活用し10年程度で異動させる
贈与税は暦年単位で課税する構造となっていて、毎年の基礎控除が110万円あります。この110万円控除を活用する株式の移転手段です。御質問者所有の5~6株を息子さんに贈与しても、1年当たりの贈与税はかからないか少額です。株価が急上昇しない限り、60株を10年~12年ですべて異動できるのではないでしょうか。
5株・・110万円▲110万≦0円 贈与税は生じません
6株・・132万円▲110万 贈与性はおよそ毎年2万2千円
(但し、この手段は異動期間が長期に及び環境変化、例えば株式時価の大幅な上昇、急な相続の発生、への対応が難しいことが問題です)
②相続時精算課税制度を活用し、全株式を一括贈与する
相続時精算課税制度とは、贈与時に累積2500万円までを特別控除し、贈与者の相続時にその贈与財産を相続財産に加えて相続税課税する制度です。
御質問者が60歳になった翌年以降(脚注2)、お持ちの全株式1320万円を息子さんに贈与しても相続時精算課税制度を活用すれば贈与税は課税されません。尚、株価上昇したとしても一株41.6万円までであれば贈与税はかかりません。
(贈与する株価の総時価1320万円▲控除2500万円≦0円)
但し、この制度を一度選択すると暦年課税制度に戻ることが出来なくなるため、暦年課税での110万円控除が受けられなくなります。その結果、ご質問者がご自身の遺産に係る相続税対策を検討される際、打てる手が狭くなります。
③事業承継税制を活用し、全株式を一括贈与する。
中小企業の事業承継をバックアップするため、事業承継税制が設けられています。非上場株式で一定の要件を満たす部分について、贈与税の納税を猶予し、最終的に納税を免除する特例制度です。
ただし、この適用を受けるには、実質的にご質問者が経営の一線から退く必要があります。また、この特例要件や継続的に猶予されるための要件は厳しいものがあります。
ご質問者のケースについて具体的に検討してゆきます。
贈与までの準備
ご質問者の要件:ご質問者が60歳以上の1月1日以降、贈与時前に代表権を有し、贈与の時に代表者でないこと(来年以降)
ご子息の要件:贈与の3年以上前から役員に就任していて、受贈時点までに代表者に就任していること(2年後から適用可)
業種:金属部品製造業は対象業種(脚注:風俗業は対象外)
贈与税が猶予・免除される対象
猶予対象の株式数:60株すべて対象
納税猶予額:147万円
贈与後の手続き
❶雇用維持:常時使用の従業員が贈与時の従業員数の80/100を下回らないこと
❷報告業務:
○経済産業大臣の認定を受け、5年間にわたり毎年「年次報告書」を同大臣に提出する
○税務署長に毎年「経営贈与報告届出書」を提出する
❸営業の維持
❹その他
特例が取消され納税猶予期限の到来
納税猶予の継続要件を満たさなくなった場合、延滞税とともに贈与税の納税をしなければなりません。
❶ご子息が代表権を有さなくなった
❷ご子息の持株割合が50%以下となった
❸基準日に従業員の数が80/100を下回った
❹その他
事業承継税制をうまく利用すれば、次期経営者に贈与税や相続税が課税されることなく株式を移動させることができます。ただし、手続きや納税猶予を継続させる要件が厳しいため、活発に活用されているとはいい難いのが実情です。ご活用を検討される場合には、必ず専門家等にご相談ください。
脚注
1:本文は平成28年3月29日現在の税法等に基づいて記載しております。
2:厳密には贈与をした年の一月一日において60歳以上