【質問】家族信託について教えてください
障がい者の子を持つ親です。親亡き後この子が生活してゆけるようにと成年後見制度の活用も検討し、遺言も作成しました。雑誌で、財産管理には家族信託が役に立つと伺いました。家族信託とはどのようなもので、成年後見人や遺言とどのような違いがあるのでしょうか。
【回答】家族信託とは、信頼できる親族に財産管理を託する制度です
信託といえば、信託銀行との契約や信託債券の購入をイメージされる方が多いと思います。信託銀行や証券会社の信託業務を商事信託といいます。ご質問者がお尋ねの家族信託とは、親兄弟間などで預金や不動産の運用・管理・処分を委託・受託する契約で、文字通り信じて託する契約のことです。先の商事信託に対し民事信託とも呼ばれます。
信託の起源は、中世の十字軍遠征に始まったといわれています。帰還できるともわからない長い遠征に旅立つ軍人が、自分の財産を信頼できる人物に託し、「戦死した場合には家族に財産を渡してくれ、無事戻れば私本人に返してくれ」と言い残して遠征に赴いたそうです。
家族信託は優れた制度だと思うのですが、法整備が遅れていたこともあり日本ではほとんど普及してきませんでした。平成18年12月に新信託法が施行され、利用しやすい制度に生まれ変わったのちも、なじみが薄いためかほとんど活用されないままとなっていました。
ところが、日本が超高齢化社会及び人口減社会に突入し、エンディングノートの活用が話題になるなど、自らの老後・死後のトラブルを事前に予防しておきたいという要望が急速に増加してきたため、家族信託がにわかに脚光を浴びるようになりました。
家族信託 自らの財産を、受託者名義に変更し、管理・運用・処分を委託し、その果実を受益者に渡してもらう制度です。自らの存命中・死亡後に関わらず自分の意思どおりに財産を託せることが特徴で、財産信託や遺言信託などがあります。
遺言とは 自分の死後、財産をいかに分割するかを決めておく制度です。相続人同士が不仲であったとしても争族に発展させない効果があります。とはいえ、全相続人の合意により遺言書の内容とは別の遺産分割することも可能です。遺言内容次第では感情的なしこりが残ることもあります。
成年後見制度 認知症や障がい等の理由で判断能力が低下した方(自分・あるいは障害者の子)に代わって財産管理をしたり、契約を結ぶことを支援する制度です。ただし対象者の死亡により成年後見契約は消滅します。
信託制度は、遺言を代替することも可能ですし、成年後見制度を補完する機能を有しています。委託者の意思を、その者の生前から死後にわたって実行させてゆくことができる制度設計になっています。とはいえ、すべてを解決できる万能の制度ではありません。
遺言書や成年後見制制度を上手に組み合わせて活用することで、自分たちの老後・死後の不安やトラブルを未然に防止する効果が格段に増加すると考えられます。
ところが、厄介な面もあります。実のところ、民事信託は、法務・税務が入り組んだ複雑な制度ですので、専門家が圧倒的に不足しています。それに加え、家族信託を十分理解する金融機関がほとんどないため、名義変更等の対応が滞りがちです。家族信託の活用拡大には今しばらく時間がかかりそうです。
脚注
本文は平成29年4月28日現在の法令・税法等に基づいて作成されています。