【質問】軽減税率反対に納得できません
消費税軽減税率に反対する人々を不審に思っています。
アベノミクス効果もあってか、十数年続いたデフレがようやく終息しつつあるように思います。デフレ終息とは消費者物価上昇を意味します。近頃食料品がかなり値上がりし、生活を圧迫しているように感じます。
食料品は生活をするうえで、必要不可欠なもので、これ以上の増税(8%→10%)などもってのほかです。現行法上、食料品の税率は8%ですが、そもそも生活必需品に消費税を課税すること自体間違っています。極論すれば食料品税率は0%こそ最も正しい税のありかたではないでしょうか。その他、新聞、書籍、文化的な催しも軽減税率であるべきです。昔の話ですが、子供がお菓子を買いに行き、消費税分を払えなかったため手ぶらで帰ってきたときには、怒りすら覚えました。
今すぐにでも軽減税率を導入し、さらにはインボイス導入で益税問題(1)を一掃すべきです。ところが税理士団体や中小企業団体は軽減税率導入に反対しています。これら団体はインボイス導入の手間や消費税減収を理由に挙げられていますが、自分たちのみの不利益を排除しようとする愚か者にしか見えません、納得できる説明をしてください。
【回答】感情面はさておき、やはり複数税率導入には反対です(2)
円安の影響もあり、食料品などの生活必需品の値上がりは2年以上継続しているようです。それにもかかわらず、日本の経済停滞は長期に及んでおり、求人倍率は上昇していますが賃金給与はほとんど上昇しておらず国民の重税感はますます大きくなっているように思います。
では、食料品の税率を軽減ひいては0%にし、新聞書籍などにも軽減税率を適用すべきかといえば、やはりすべての品目について単一税率を維持しておく方がより好ましいと考えています。
理由1複数税率を導入すると、いずれ標準税率を増税せざるを得なくなる
すべての食料品を標準税率より低くすると、その分税収が減収し、他で補填しようとする反応が生じます、標準税率の再増税です。
EUの標準的な消費税率(厳密には付加価値税率)は19~25%と、日本と比べると驚くほど高く設定されています。消費税導入当初からEUは多くの食料品、新聞書籍、文化的催し等につき軽減税率を導入していました。建前としてすべてに広く浅くを標榜していましたが、課税対象が思いのほか狭く、施行してみると税収があまり上がらなかったのです。やむなく標準税率を徐々にアップさせることで税収不足分を補てんしていました。当然ことながら、標準税率アップは消費者を消耗品・耐久財の買い控えに走らせ、景気は長期間低迷しました(3)。
仮に標準税率10%、すべての食料品5%を採用すると、滅失する税収を補てんするため標準税率を12%に上げる必要があると報告されています。食料品の税負担が減る代わりに他の生活必需品・・・消耗品、被服品、耐久財等の税率が上昇してもいいのでしょうか。仮に多くの消耗品・耐久財等の税率が上昇すると、多くの国民は外資系のより安価な商品・製品を選択してしまうのではないでしょうか。
理由2インボイス方式導入は不正防止の切り札とならない
複数税率を導入するとインボイス導入が避けられません(4)。インボイス発行の事務負担が中小企業の経営を圧迫するとの意見もありますが、個人的には乗り越えられる程度の事務負担増加と考えています。私が懸念するのはインボイス不正です。
マスメディアが「消費税問題をインボイス導入で一掃できる」(5)と主張しているのをよく目にしますが、果たしてそうなのでしょうか。
インボイスとは消費税の支払証明書で、これがあれば事業者は消費税を控除できます。ところが消費税を導入している国々では、インボイスの不正が横行しているため訴訟が頻発しています。日本は納税意識が比較的高いという意見もありますが、日本以上に納税モラルの高い国でさえ不正が横行し、国民の不公平感が高まっているようです。事務負担を増加させたにもかかわらず、不正が拡大したのでは意味がありません。
日本の消費税制度について、OECD:経済協力開発機構は、先行諸国の問題点を考慮し、よく制度設計された優れた付加価値税制度である、と高く評価しています。その評価された単一税率、帳簿方式という制度を捨ててまで欧州等の複数税率を後追いする理由が、私には見出せません。
ご質問者がご立腹の、食料品購入に際して消費税が課せられた事例などは、子供達に税金と暮らしの関係を教える絶好の機会とお考えいただけませんでしょうか。
脚注
1益税問題とは、小規模事業者が免税適用を受け、受取消費税を払わないとされる現象
2私の私見であることにご留意ください
3経済競争力のあるドイツは成長の糧を輸出に求めました。ドイツGDPの輸出依存度
は日本よりはるかに高い
4複数税率でも帳簿方式を維持できると主張する政党もありますが、詳細は不明です
5益税問題とされる小規模事業者の免税額は微々たるもので、輸出還付問題や95%超
の全額控除問題の方が、税収に大きな影響を及ぼしています